Bさん(30代 男性/X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症)

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症と診断された患者さんの体験談です。実際の症状や経過には個人差があります。
気になる症状がある方は医師にご相談ください。また必ずしも同じ症状がFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症と診断されるとは限りません。

Bさん(30代 男性/X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症)

Bさん(30代 男性/X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症)

職業:医師
家族構成:妻、子ども2人(娘1人、息子1人)

一度中断した治療、骨折きっかけに再開
「病気や症状のことを、一人でも多くの方に知ってもらえたら」

診断と治療の流れ

1歳半頃に、母が症状に気付く

歩き始めない私を心配した母が整形外科へ

最初に症状が現れたのは1歳半頃。なかなか歩き始めない私を心配した母が、病院の整形外科に連れて行ったと聞いています。私にとって数か月に一度の定期的な通院は、物心ついた頃から生活の一部でした。

当時は、“病気”という感覚はほとんどなく、どちらかと言えば「お友達と比べて走るのが遅い」ことを気にしていたと思います。“病気”を初めて意識したのはおそらく4~5歳の頃。足の変形が強くなり、「手術をするか、しないか」を判断するため何度も通院したのを覚えています。結果的には、ギプスなどの装具で対処が可能になり、手術には至らずにすみました。

9歳頃になると、O脚やX脚など、足の変形の状態が目まぐるしく変わっていき、筋力も落ちてしまったので、通院先でリハビリを開始することになりました。

point

  • 1歳半頃に初めて症状が現れ受診。
  • 物心つく頃には、数か月に一度のペースで通院。
  • 病気を初めて意識したのは4~5歳頃。足の変形が強くなり手術が検討されていた。
  • 9歳頃から通院先でリハビリを開始。

中学2~3年生の頃、病名を初めて認識

欲しい情報を得られなかったインターネット検索

物心つく頃には当然のように通院していたので、病院へ通う理由に考えをめぐらせることはありませんでした。それが中学2~3年生頃でしょうか。診察中にカルテに書かれた「ビタミンD抵抗性くる病」という病名が、たまたま目に飛び込んできたんです。この時初めて自分の病名を認識しました。

両親に尋ねても「ビタミンDが効きにくい病気のようだし、足の変形がきついからとりあえず通院しているよ」くらいの回答しか得られなかったので、インターネットでずいぶん調べましたね。遺伝することもある病気だということは、そこで知りました。母も同じような症状を抱えていたので受け継いだのかなと。本当は、病気の原因や見通しを知りたかったのですが、当時は思うような収穫を得られませんでした。この時「病気の原因をしっかり調べたい」という願望が強くなったことが、医師を志すきっかけになりました。

point

  • 中学2~3年生の頃、「ビタミンD抵抗性くる病」という自分の病名を初めて知る。
  • インターネットで検索したが、当時は病気の原因や見通しなどは分からなかった。
  • この時に「病気の原因をしっかり調べたい」と思ったことが、医師を志すきっかけに。

20歳頃、中断してしまった治療

治療を続ける意義を見失い、薬の処方やリハビリが終了となる

幼い頃からずっと続けてきた治療ですが、当時の主治医から「大人になったら治療は要らなくなる」と言われていたため、大学生になる頃には治療を続ける意義をすっかり見失っていました。実際に20歳を過ぎたら、主治医の判断のもと薬は処方されなくなり、リハビリも終了になりました。

ただ、この頃からむし歯に悩まされるようになりました。治療したばかりなのに、すぐにむし歯ができたり、なかには神経まで抜かないといけないような深いむし歯もありました。

*むし歯などの合併症について:くる病・骨軟化症の方は、健康な方に比べて歯ももろくなっています。このためひどいむし歯や歯肉膿瘍(しにくのうよう)(歯ぐきが赤く腫れたり、膿が出たりする病気)になりやすい傾向があるので注意が必要です。くる病・骨軟化症の治療を続けるほか、食後の歯磨きを必ず行う、歯科医の定期検診を受けるなど、歯のケアを怠らないよう心がけましょう。

関連ページ

point

  • 大学生になる頃には、治療を続ける意義をすっかり見失っていた。
  • 20歳を過ぎると、薬は処方されなくなり、リハビリも終了した。
  • 治療を中断した頃から、むし歯に悩まされるようになった。

父親になった24歳頃から、確定診断を目指す

遺伝子検査で娘が自分と同じ病気に

まだ医学生だった24歳の頃、妻との間に女の子が生まれました。その時、病気のことをずっと相談していた大学病院の医師から「子どもの遺伝子検査を受けた方が良い」と勧められました。

今から振り返ると、私の病気が「X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH)」だということは、症状などから明らかでした。しかし、当時は今のようにFGF23*を測定することができず、確定診断をするには遺伝子検査しかありませんでした。男性がこの病気を発症している場合、生まれてくる子どもが女の子だと100%遺伝します。子どもに対しては早いうちから適切な治療を行うことで大きくなってからの影響が小さくなる可能性がある事実を踏まえて、「この機会に白黒はっきりつけた方が良い」と説得されたのを覚えています。

遺伝子検査の結果、娘はXLHと確定診断されました。このことから私もXLHであることは明らかでしたが、最終的にXLHの確定診断をつけられたのは、33~34歳になった頃でした。

* FGF23測定について:くる病・骨軟化症は、病因別でいくつかのグループに分けられます。このうち、特定のホルモン(線維芽細胞増殖因子23:FGF23)の過剰な働きを病因とするグループを「FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症」(XLHもこのグループに含まれます)と呼びます。FGF23の測定検査は、「FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症」かどうかを判断する際に実施されます。

point

  • 24歳の頃に娘が生まれたが、出生時は確定診断がついていなかった。
  • 遺伝子検査の結果、娘がXLHと確定診断。

31歳頃、骨折を機に治療を再開

骨折をきっかけに、勤務先の病院で治療再開

20歳頃に中断してしまった治療ですが、X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH)だと確定診断がつく前の31歳頃に再開することになりました。きっかけは太腿の骨折です。ちょっとしたきっかけで転んだ時に折ってしまって…。病院でレントゲン写真を撮ってもらうと、骨がスカスカの状態でした。「このままだと、もう一回骨折するよ」と言われ、さすがに治療を再開しました。

ただ、当直勤務などをしているとどうしても内服を忘れてしまうことがあり、忘れる日が続くと、身体に力が入りにくいと感じることがよくありました。歩く速度が遅くなるし、重い物を持ち上げるのもきつい。力仕事も周りの人にお願いせざるを得なくて、申し訳ない気持ちでいっぱいでした。また関節痛のような痛みが四六時中ありましたね。職業柄、動かないといけないことが多いのですが、歩いたりかがんだりするだけで腰や膝が痛むのはつらかったです。朝晩必ず鎮痛剤を飲んでコントロールしていました。

それから5年ほど経った36歳の頃、現在の主治医からの提案で治療法を変更しました。治療費が高額になる可能性があるので果たして継続できるのだろうかなどと、最初はかなり迷いました。でも先に切り替えた患者さんからの感想が後押しになり、治療費についても指定難病の医療費助成制度の認定を受けられたので、不安は解消されました。

point

  • 31歳頃、骨折をきっかけに治療を再開。
  • 内服を忘れる日が続くと、身体に力が入りにくくなるなどの症状が現れた。
  • 36歳の頃、指定難病の医療費助成制度の認定を受けた。

これからのこと

生涯にわたって治療やケアの必要な病気
正しい知識を広めていきたい

X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH)は、その病態によっては、生涯にわたって治療やケアが必要だと思います。しかし病気の正しい知識は、まだまだ普及していません。私の場合は、母親に症状があったので早い段階で診断してもらうことができました。でもそういった境遇でもない限り、早期診断の難しい病気です。また、「大人になったら治療しなくても良いよ」と言われて、治療が途絶えてしまった方もたくさんいらっしゃると思います。最近は学会などでも、X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH)が取り上げられることも増えてきました。情報発信の機会が増え、医師に正しい病気の知識が普及していくのは、とても大切なことだと思っています。

同じ病気を抱える娘は、今年13歳になりましたが、最近反抗期を迎えたからか薬を内服しない時もあり困っています。小児でも治療が続けやすい方法が登場すれば良いなと思います。

X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH)と診断された患者さんは、周りに同じ病気の方が見つからず、相談相手やサポート窓口になかなかたどり着けないことも多いでしょう。「くるこつ広場」などで患者同士がつながり、支え合えるようになっていけたら良いなと思います。患者から情報発信できる場はほとんど無いので、自分の体験を伝えられる機会は貴重です。「骨の変形があったり筋力がつきにくかったり、低身長になってしまう」そんな病気もあって、こういう症状を抱えている人もいるんだよということを、一人でも多くの方に知ってもらえたらと思います。

現在は病院で確定診断するための検査体制もできていますし、新しい治療も開発されました。ただ、どうしてFGF23がたくさん作られるのかなど、わからないこともたくさんある病気でもあります。これからどんどん研究が進んでいき、さらに良い治療ができるかもしれません。その手助けになれるようにがんばっていきます。

この記事の監修ドクター

伊東 伸朗 先生

伊東 伸朗先生

  • 東京大学医学部附属病院(研究室HP)
  • 腎臓・内分泌内科 特任講師

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