FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症とは?

低リン血症性くる病・骨軟化症*のうち、線維芽細胞増殖因子23(FGF23)というホルモンが過剰になって起こるものを「FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症」といいます。

* 低リン血症性くる病・骨軟化症については「くる病・骨軟化症の3つの原因と疾患」をご覧ください。

※FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は以下で呼称される疾患を含みます。

  • ビタミンD抵抗性くる病・骨軟化症
  • ビタミンD抵抗性骨軟化症
  • 原発性低リン血症性くる病

FGF23とは?

FGF23とは、骨にある細胞(骨細胞)で作られて、血中に分泌されるホルモンの一つです。

FGF23には、「血中のリンを低下させる」働きがあり、血中のリンを一定の範囲に調節する因子の一つです。

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症

血中のFGF23が過剰になると、尿中に排せつされるリンが増加し、また、食事でとりこまれたリンが吸収されなくなります。その結果、血中のリン濃度が異常に低くなり、低リン血症性くる病・骨軟化症が起こるのです。

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症とは

過剰に分泌されたFGF23によって起こる低リン血症性くる病・骨軟化症にはいくつか種類があり、それらをまとめて『FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症』と呼びます。

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症は、生まれつき特定の遺伝子に変異があるために起こる先天性と、生まれた後に発症する後天性とに分けられます(表)。先天性の中には、親から遺伝するものもあります。

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症 責任遺伝子(※)
先天性
X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH*1
*1 XLH: X-linked hypophosphatemic rickets/osteomalaciaの略称
PHEX
常染色体顕性低リン血症性くる病・骨軟化症(ADHR*2
*2 ADHR:autosomal dominant hypophosphatemic rickets/osteomalaciaの略称
FGF23
常染色体潜性低リン血症性くる病・骨軟化症(ARHR1*3
*3 ARHR:autosomal recessive hypophosphatemic rickets/osteomalaciaの略称
DMP1
常染色体潜性低リン血症性くる病・骨軟化症(ARHR2) ENPP1
歯の異常・異所性石灰化を伴う低リン血症性疾患 FAM20C
骨空洞骨異形成症 FGFR1
Jansen型骨幹端軟骨異形成症 PTH1R
線状皮脂腺母斑症候群に伴う低リン血症くる病・骨軟化症 HRAS,KRAS,NRAS
McCune-Albright症候群/線維性骨異形成症 GNAS
神経線維腫症I型 NF1
後天性
腫瘍性くる病・骨軟化症(TIO*4
*4 TIO:tumor-induced osteomalaciaの略称
含糖酸化鉄、ポリマルトース鉄による低リン血症性くる病・骨軟化症 など

福本誠二,ほか.日本内分泌学会雑誌 2015;91(Suppl):1-11 福本誠二.CLINICAL CALCIUM 2018;28:15-19を一部改変

※責任遺伝子;疾患を引き起こす基となる遺伝子

これらのFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の中で、代表的な疾患として、2つを紹介します。

X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH)

遺伝性のFGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症の疾患で最も多くみられるのが、X染色体連鎖性低リン血症性くる病・骨軟化症(XLH)です。推定発症率は2万人に1人という調査結果があります1)

子どもの頃から症状がみられることが大半ですが、まれに大人になってから疾患が見つかることもあります。

原因

XLHはPHEX(phosphate-regulating gene with homologies to endopeptidases on the X chromosome)という遺伝子の変異が原因です。

症状

FGF23関連低リン血症性くる病・骨軟化症とは

子どもの患者さん、大人の患者さんに共通して現れる症状として以下が挙げられます。

  • O脚(内反膝)やX脚(外反膝)がみられる
  • 子どもの身長が標準値より低い(低身長)、身長の伸びが遅い(成長障害)
  • 歯ぐきが赤く腫れたり膿がたまったりする。歯肉膿瘍しにくのうようやひどいむし歯がみられる
  • 骨や関節が痛む
  • 筋肉が痛む、筋力が低下する
  • 関節がこわばる(動かすのが難しい)
  • 難聴

また、子どもの患者さん、大人の患者さんそれぞれに現れる症状もあります。

子どもの患者さん特有の症状

  • 歩き方が不安定にみえる・バランスを取ろうと左右に揺れながら歩く(歩行障害)
  • 下半身の成長に異常が見られ、上半身と下半身のアンバランスがみられる
  • 体を使った動きが苦手(運動障害)
  • 頭の形がいびつになる(頭蓋骨早期癒合症ずがいこつそうきゆごうしょう

大人の患者さん特有の症状

  • 骨折・偽骨折(骨を横断しない骨折。単純X線検査で撮影した際、Looser’s zoneと呼ばれる線が写る。)
  • 変形性関節症
  • かかとの靱帯や腱(筋肉と骨を結びつける組織)、脊柱(背骨)の靭帯などが異所(本来の部分とは異なる場所)性に骨化する。異所性骨化が起きると神経が圧迫されてしびれや痛みが現れることも

いずれの症状も患者さんにとって、生活の質(Quality of Life:QOL)に大きな影響を与えます。

腫瘍性くる病・骨軟化症(TIO)

腫瘍(異常な細胞が増殖してできたかたまり)がFGF23を過剰に分泌することで発症する低リン血症性くる病・骨軟化症を、『腫瘍性くる病・骨軟化症(TIO)』といいます。

有病率(病気にかかっている人の割合)は1~5万人に1人で、男女差はありません2)。大人で発症することが多いのですが、まれに子どもでの発症も報告されています。

原因

TIOの原因となる腫瘍は、全身の骨や軟部組織(皮下の線維組織)で見つかることが多いです。腫瘍は大きくなるスピードが遅い良性のものが大半ですが、手術後や長期の経過で転移する悪性のものも含まれます。また、まれに結腸がんや卵巣がん、前立腺がんや肺がんなどの悪性腫瘍がFGF23を過剰に産生し腫瘍性くる病・骨軟化症の原因となる場合があります。

原因となる腫瘍は1cm以下であったり、全身のどこの骨や軟部組織にでも発生する可能性があるので、見つけにくいことが多いといわれています。

症状

主な症状は次の通りです。

  • 骨の痛み
  • 骨折・偽骨折(骨を横断しない骨折。単純X線検査で撮影した際、Looser’s zoneと呼ばれる線が写る。)
  • 筋力の低下
  • 筋肉の痛み

骨や筋肉の痛みは治療せずにいると強まる傾向にあります。また、進行が速い場合には、短期間のうちに、杖歩行から車いす、さらには寝たきりになるまで進行することもあります。

1) Endo I,et al.Endocr J.2015;62:811-816
2) 古家美菜絵,伊東伸朗.Clinical Calciumu 2018;28(10):1351-1357

この記事の監修ドクター

伊東 伸朗 先生

伊東 伸朗先生

  • 東京大学医学部大学院医学系研究科 難治性骨疾患治療開発講座 特任准教授(研究室HP)
  • 東京大学医学部附属病院 骨粗鬆症センター 副センター長

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